提言その1 2014年12月 *我が国への提言* 成熟した日本にふさわしい豊かな海岸の創造を
提言その2 2016年3月 改めて、日本への提言
提言その3 2016年8月 『桟橋』が日本の海岸を変える成熟社会の新しい海岸づくり
報告書「3カ年の英国桟橋巡りを終えて《第Ⅳ章》
1.暮らしの舞台となる海岸づくり
2.年間を通して人々が滞在する海岸リゾート
3.街づくりをリードする海岸マスタープラン
4.市民や民間の創意と参画による海岸づく
*沿岸地域に暮らす豊かさを実感できる海岸づくり
*通年型、滞在型の海岸リゾートへの展開
*地域の人々が作る海岸マスタープラン
*市民や民間の自由な発想こそが鍵
新しい海岸づくり
台風や高波さらに津波など、わが国の海岸は確かに厳しい条件に晒されています。しかし沿岸地域を活性化するためには、海の脅威に備える防護一辺倒の発想から、海や海岸の魅力を満喫できるよう、海岸の防護と利用を両立させた新しい海岸づくりを目指すべきです。
このような想いからPIERS研究会は提言をまとめ、「沿岸域における地方創生研究会(沿創研)《を設け、英国の『桟橋』と『エスプラナード』に多くの示唆を得て、全国9か所の海岸でケーススタディを行いました。ここに成熟社会の新しい海岸づくりが目指すべき方向と具体的なイメージを提案します。
<1> 暮らしの舞台となる海岸を目指す
日本の海岸に『桟橋』を導入すると、日本人の海との付き合い方は大きく変わるでしょう。海の上を歩き、潮風を浴び、慣れ親しんだ自分の街を海から眺め驚くでしょう。海上で食事を楽しみ夕日に見とれるでしょう。海と云う大自然の空間が一挙に身近な存在となるに違いありません。
<大都市圏で鉄道駅から渚、海に直結する桟橋を導入する:神戸須磨海岸のイメージ> ©Google
暮らしと海との繋がりを取り戻し、沿岸都市に暮らす喜びや豊かさが実感できる状況をつくりましょう。成熟社会のインフラとして、生活の質を高める場としての海岸づくりが強く求められます。
<2> 四季を通して海を楽しむリゾートへ
沿岸地域の人々にとって楽しい海岸づくりは、近隣の内陸地域や大都市圏からも人々が訪れる海岸リゾートへの発展の可能性を高めます。それも夏場だけの海岸の利用ではなく、年間を通して落ち着いた休暇を楽しむ滞在型の海岸リゾートを目指すべきです。
日本の半分の人口しかない英国で、多くの海岸リゾートが全国各地に発展していることに学びたいものです。少ない人口でも、四季を通じて長期の休暇を楽しむことにより、地方の沿岸都市の経済を潤しているのです。成熟社会を迎えた今、質の高いライフスタイルの実現に取り組むことこそ、少子高齢化の日本が縮こまることなく輝いて発展していく途ではないでしょうか。
<沖の離岸堤まで桟橋で繋げ斬新な海の魅力を創出する:熱海海岸のイメージ>
<大規模公園の前に海岸の新たなシンボルとして桟橋を導入する:湘南辻堂海岸のイメージ>
日本列島の美しさ良さを心から噛みしめる滞在型の落ち着いた休暇を、日本社会も志向する時です。地方創成にはこうしたライフスタイルの変革を通して活性化を図る戦略が重要となっています。また滞在型の休暇を定着させるためには、高級ホテルだけでなく安価に宿泊できる施設の提供が重要です。空き家などの活用も含め、市民や民間の協力を得て取り組むべきです。
<3> 海岸マスタープランで街づくりを
このような新しい海岸づくりを進めるためには、何よりも沿岸地域に暮らす人々が自分達の海岸を見つめ直し、将来のあるべき海岸の姿を構想することが重要となります。
海岸マスタープランの策定においては、海岸の陸域・水域にわたる利用と保全のゾーニング、空間的な骨組みと拠点のあり方、保全すべき大切な資源や景観、多様な開発の進め方など、多くの課題を検討する必要があります。
また海岸の防護と多様な利用の両立については、地域の個性を活かした独創的なアプローチがより大切です。とくに『桟橋』や『エスプラナード』が大きな役割を発揮するでしょう。また現在ある海岸施設や港湾施設を改良し有効に活用することも重要です。沿岸地域の暮らしやすい街づくりは、地元の海岸のもつ魅力や個性を最大限に発揮させることから始まります。
<海の上を歩き回遊性を楽しめるように桟橋を導入する:那覇波の上海岸のイメージ>
また海岸保全施設の老朽化が全国的に進んでいますが、その更新や再整備を検討する今こそ、新たな海岸づくりの好機と位置づけるべきです。
<4> 市民や民間の創意と参画で
この新しい海岸づくりの主役は市民や民間です。市民や民間の創意と工夫、行動、協力なくして海岸づくりは実現しません。『桟橋』や『エスプラナード』の基本部分は公的な整備で行うとしても、海を楽しむための多様な施設の整備や運営は、市民や民間に委ねることが基本となるべきでしょう。また海岸を良好に維持していくためにも、市民や民間の知恵と参画が欠かせません。
このため現行の海岸の利用、活用に関するさまざまな規制を見直し、緩和していく必要があります。一方で環境や景観など海岸の広範な保全に関しては、新たな規制も必要となるでしょう。また海や海岸を多面的に楽しむためには、幅広い分野の市民グループやNPOなどの協力が上可欠です。休暇で滞在する人々にとっても、地元を知り尽くした市民や民間の積極的な協力が必要となるでしょう。
<砂浜に四季を通して気軽にアクセスできる桟橋を導入する:新潟西海岸イメージ> ©Google
<海沿いの観光地の新たな魅力づくりとして桟橋を導入する:別府海岸イメージ>
<水際線までが遠い海岸に桟橋を導入し楽しさを取り戻す:大洗海岸イメージ>